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2024.11.16 Saturday
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風邪ネタ2(前編)
2010.12.09 Thursday
「だぁあー!熱ィ…!」
がばりと撥ね除けた毛布から、蒸した空気が逃げて行く。けれど少しも涼しくならない。
がばりと撥ね除けた毛布から、蒸した空気が逃げて行く。けれど少しも涼しくならない。
茹だる程の熱の源が外界のものなのであれば、衣服を脱ぐとか…まぁ、普段から背負った誇りを見せびらかすような格好だけれどもそれでも、其処を離れるだとか、どうにかしようがあるのに。
汗を拭うような形で額に宛てた腕が湿った様には感じなかったのは、出て行く端から蒸発してしまっているんだろうか。
目の上を覆った腕を離して翳してみると、透明にぼんやりと輪郭を覆う歪みがあって、おれが発する熱が視覚で確認出来る程なのを知った。
自分に、病に、能力に、辛さに、恨むものが多過ぎて、憤りは言葉にならず呻き声に要約される。
「うぅー……熱ィ…」
もう何度目か解らない呟きを漏らして、その言葉と矛盾している気がするけれど再び頭まで毛布に包まった。
放てないから、封じ込めてしまいたいと思った。
【風邪っぴきエースぐんとお世話マルコさん。2】
汗を拭うような形で額に宛てた腕が湿った様には感じなかったのは、出て行く端から蒸発してしまっているんだろうか。
目の上を覆った腕を離して翳してみると、透明にぼんやりと輪郭を覆う歪みがあって、おれが発する熱が視覚で確認出来る程なのを知った。
自分に、病に、能力に、辛さに、恨むものが多過ぎて、憤りは言葉にならず呻き声に要約される。
「うぅー……熱ィ…」
もう何度目か解らない呟きを漏らして、その言葉と矛盾している気がするけれど再び頭まで毛布に包まった。
放てないから、封じ込めてしまいたいと思った。
【風邪っぴきエースぐんとお世話マルコさん。2】
もう長いこと眠って目覚めたばかりで、その上あまりにしんどいものだから、なかなか睡魔は訪れない。
いつもはあんなにしょっちゅう、強烈にやってくる癖に。そもそもこうなったのもその所為だ。
白鯨の鼻先は広々としていて心地良い。おれの特等席!と言えれば最高かもしれないけど、そうではない所も気に入っている。ただ気持ちイイからってだけじゃなく、偉大な背中への憧れもあったりして、彼処に居るのが好きなのだ。昨日なんかは大分寒かったけどそれでもちょっとだけ、と彼処に佇んで、キンと冷えて澄んだ空と穏やかな朝の色の海を見ていた…筈なのに、次の記憶はおれを上から覗き込む兄達の顔。
急に、吐きそうなほど苦しくて尋常じゃなく寒くて、一番近くにしゃがみ込んでた奴が水浸しで、あれ、と思った瞬間、安心したような顔をした其奴に思いっきりぶん殴られた。何がどうなったのかなんて、当たり前だけどすぐに解った。
引き上げられ医務室に放り込まれて直ぐは、騒がしくくしゃみを連発するおれを面白がる奴も多かったけれど、昼を過ぎる頃には飽きられて、たまに構いにくるのはなんだかんだと心配してくれた2番隊の奴らだけになっていた。
だんだんしんどくなってきてちゃんと相手を出来なくなっていたから、来訪者が減るのは好都合で、これはヤバいかもなーと思っていたそんな時だ。
不意にぶわりと体が熱くなって、其れに呼応するように近くに置かれたカンテラの火が大きくなった。
呻くような声が出ていたらしく、エース?と掛けられた高い声にハッとして、来るなと叫んだ声は炎と一緒に放たれた。
自分が放ってしまった赤は揺らめいて渦巻いて、燃え上がる。慌てて治めようと伸ばした腕も、腕の形ではなかった。
なんで、と思ったのと、ナースの悲鳴が重なった。
この船に乗ってるナース達は、強い。腕っ節なんかじゃ敵わない、もっと内側にとてもしなやかで強かな芯を持った女ばかりだ。だから、其処が医務室でなくて、明日誰かの命を繋ぐのに必要かも知れない薬や器具なんかが置いてなければ、叫んだりしなかっただろう。
蜷局を巻いた炎が、薬棚を襲うように伸びるのと同時に、同じ場所を目指して両手を広げた彼女が躍り出た。絶望している場合じゃない。
止まれ!
念じてぎゅっと目を瞑った瞬間ー
強烈に、体がびりびりと痺れる衝撃が走って、部屋中の空気がずんと濃く重くなった。
おそるおそる目を開くと、一面の、蒼。
その向こうでどさりと音がして、ナースが倒れた。覇気にあてられてしまったらしい。でも彼女も、彼女が守ろうとした棚も無事だった。
ちょうど訪ねて来てくれた、マルコのおかげだった。
覇気を纏った蒼にのまれ、赤は消えて、それを確認してからか、蒼も消えた。
1番隊は忙しかったみたいで、それが昨日、初めて逢ったマルコだった。
来てくれなかったらどうなっていたかと恐ろしくて情けなくて、ごめんを繰り返すおれを、ただ抱えて背中を擦って、この部屋に運んでくれた。
伝えておいてくれと頼んだけど、はやく彼女に直接詫びたい。その後に、火傷を負わせてしまった奴らにも。
彼奴らが弱ってるおれを面白がるのが、彼奴らなりの心配なのだというのは、これでもちゃんと受け取っているのに。
本当に、色々燃やしてしまった。毛布なんて、今包まってるのが4枚目だ。
ひとしきり思い返して、なんだか妙に息苦しいのが、さっきから溜め息を吐き過ぎてもはや深呼吸みたいになっている所為だと気付く。
…いけない、この思考の方向はいけない。
こうして自己嫌悪に陥ってずーんと落ち込むと、そのうち自らが腹立たしくて仕方なくなる。しかし怒りというのは、どうやら能力の暴走を助けてしまうらしいのだ。
部屋に閉じこもってもう何度も、この負の連鎖を繰り返してまる1日、ついに、火事に至る前に流れを変える機を見出せるようになった。それが今だ。落ち込んでいる今のうちに、別の事を。
少しだけ毛布の淵を持ち上げて、みる間にサウナみたいになっていた空間に外の空気を取り込み、またぐるぐると考える。
例えば空から海王類が降ってくるだとか。
そんな素っ頓狂な噂が、運命に関わる情報だったりする、此処はそんな海だ。
オヤジの統率のもと優秀な航海士達と練った計画に従うのは各隊長達に纏められる腕利きの船乗りばかりなのだから、この船がデマに惑わされる事なんてそうそう無いけれど、だからといって、迂闊に噂の元になるような騒ぎを起こすととんでもなく怒られる事がある。
ちょっとした軽口だってこれだけ大きな船を一周すると、色んな事が抜け落ちたり乗っかったり元が解らない姿になって、真しやかに帰ってくるかもしれないのだ。
でも。
おれが眠れないなんて言おうもんなら、嵐が来るから帆をたためだとか、騒がれるんだろうな。
一番に騒ぐだろう奴のトレードマークは昨日燃やしてしまったけど、もしかしたら、1日経った今頃には再生しているかもしれない。
彼は性格や言動がああだから、よく兄達に手厳しい突っ込みを受けている姿を見かける。主張する場所というのは狙いを付けたくなるもので、だいたいそういうときはあのリーゼントばかりが可哀想な事になっているのに、どういうわけか、翌日あたりに見かけるときはいつも通りになっていて、良く不思議に思う。
アレも、もしかしたら偉大なる航路の神秘なのかも。
自身を蝕む熱の所為なのか、ただ持て余す時間の所為か、その両方か、随分と取り留めの無い流れだけれど、
ほんの少しだけ楽しい気持ちになった。進路修正は成功だ。
そうして。
あっちこっちと飛び回る思考は自由な様に見えて、実はブーメランのようにある所へきちんと帰って行く。
「マルコ…」
その名前と、『熱い』、それぞれ何回呟いたのか、数えておけばよかった。1ヶ月分の『腹減った』を凌ぐかもしれない。それは大層な回数だ。
医務室でおれを封じてくれたマルコは、そのままおれの世話係みたいになった。
それは他の兄達の意見でもあって、不死鳥の彼はおれの炎でも傷つかないし、万一の時は医務室での事件を再現すればいい、ということらしかった。
あの時倒れてしまったのはあのナースだけじゃなく、外にいた奴らも沢山巻き添えを食ってしまったみたいだったし、なによりあれ以上マルコに迷惑はかけたくなかったから、自分の意思でも自分を封じられるように海楼石を強請って、居てくれなくても良いと言い張った。
けれど、おれが言い出したら聞かない事を知ってるマルコが、なお引いてくれなかったとき、あの蒼い瞳に抗えたためしはない。
イゾウから借りて来てくれた海楼石の仕込まれた銃弾を渋々という感じで枕元に置きながら、置いておくだけだぞと言った声が、優しかった。
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