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今、目指してる先は春島らしい。
モビーの白い鼻先を、強すぎない日差しがそれはそれは良い具合に暖めていて、そこに寝転んでいるとそれはそれは良い風が肌を撫でて行く。
いつまでも、いつまででも眠っていられる陽気。
そんな平和な時に、唐突に。
頭を、重たくて硬いものでブン殴られたような、
戦闘の中でだってなかなか味わえやしない、衝撃を受けた。
「あ、隊長…?」
「ありゃあ、何をやってんだ」
鮮やかなオレンジ色と深い赤色と、それが映える鍛えられた肌色。意識せずとも目に付く、とても見慣れたそれらの色の組み合わせが、ふと視界の端にチラついたので、男は思わず声に出した。
すると隣の男が、その視線を追って、同じように首を傾げる。
そして、ううんと唸り、それから肩を竦めて、鼻からふんと吐いた息と共に興味を逃して踵を返した。
ここまでの動きがぴたりと揃って同時だった男2人は、共に視線の先の青年が船の頭だった頃から彼を慕っていたので、その奔放さは熟知していたのだ。
だから例え彼が今、次の島で積み替える予定の積み荷の山の中、腰の辺りまで中途半端に樽にハマって、前に積まれた木箱に抱いてへばりついて、そこらに何やら殺気じみたオーラを放っているという不審極まり無い姿なのを一旦は気に留めてしまっても、尊敬や親愛に影響することもなく、何かやっているなぁくらいにしか思わないらしい。
そんなにも自分思いな部下達に恵まれた幸せにいまいち気付く事無く、当人は木箱にかじり付いたまま。
(何してんだい、彼奴は)
ごつんと額を付けた箱の中身は、エースがそうしている所為で食料でも詰まっているように見えてしまうが、ただの空箱だった。
板の僅かな隙間からメインデッキの方を伺っていたのだ。
見れば見るほど滑稽な格好なのは、背後と左右からのアングルのみで、前から見るとそれは見事に積み荷の中に姿を消している状態だ。
しかし悲しい哉、その視線に気付いて心底呆れた溜息を白煙にして吐き出したのは、エースが唯一気を遣った方向に佇む、秘めやかな(つもりの)視線の先の人物、マルコだった。
(気付かねェとでも思ってんのかよい…)
実際のところマルコも、自分の方向以外から見るエースの姿がどんなものかというところまでには気付いていないのだが、視線そのものにも気付かないでいる振りをしてやって、海を眺めて一服していた。
姿を隠したところで、あんなにも気がだだ漏れで意味がないというのに、何をかは知らないが何か企んでいて、それで頭がいっぱいなのだろう。
彼のそうした隙だらけの所は、2番隊の隊長として力を揮っている姿と余りに違い、たまに自分を馬鹿にしているように思える。
本人にそう言ってみたらどう返すだろうという所まで至って、わたわたと慌てながらも馬鹿みたいに真っ直ぐな目で否定する姿が浮かんで、マルコはふと頬を緩めた。
しかし、
「んまっ、やーらしィねェ。
なーにニヤニヤしてんだァ?」
不意に聞こえた声に、今日の陽射しのようだった心がにわかに掻き曇る。
あまりに顕著にそれを表に出したマルコに、現れて早々、サッチは苦笑した。
「そォいきなり嫌な顔すんなよ。
忙しそーな所悪いがよ…ちィとお前に、話がある」
マルコは、サッチのどこか改まった様子に首を捻り、返事の代わりに舌打った。
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悔しいことにタイムリミットとなってしまいました…
まさかの前後編でお届けします。
[しずまる]