[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
サチマルだと思ってマルエー!!(ぱちぱち)くれた方ごめんなさい。
誰の特にもならないエイプリルフールだったのでした!
***
「エース?そりゃお前、何してんだ」
「おわっ!?」
マルコ達を見下ろす荷物の陰で、誰にも見えていないような気分で居たエースは、その状態で初めて声をかけられ、おまけに肩を叩かれて、びくりと大きく飛び跳ねた。
「い、イゾウ…なんだよ、脅かすなよな」
「は。今日も楽しそうだな」
はぁあ、と大きく息をつき、どきどきと騒ぐ鼓動を抑えているエースを全く悪びれない笑顔で見下ろして、イゾウは形が良くしなやかな指を口元に当てた。
静かにしていないとまずいんだろう、と含ませた悪戯な仕草をいやに優雅にやって見せて、先ほどまでエースが一心に眺めていた方を見遣る。
「何をそんなに熱心に見てんだ…ってのは、やっぱりそうか。聞くまでも無かったな」
「う、うるせェ」
「そう照れるな。そんだけ愛されて奴(やっこ)さんも幸せだろうさ。で、今日は何を企んでるんだい」
エースは少しばかり戸惑った。
目の前の男が、随分と人の悪い笑みを浮かべているのに、それでも妙に上品っぽく美しいからではない。彼がこんな風に自分に絡む事自体が、何だか珍しい事だったからだ。
イゾウも、エースを可愛がる兄達の1人であったけれど、皆でからかう時に一枚かんでみたりする程度で、行き過ぎた時は…他に誰も止める者が居なければだが、諫めに回ってくれるような、どちらかと言えば、ギリギリ、エースにとって有り難いタイプの兄だったはずだ。
「別、に…」
短かく、歯切れの悪い応えを返して、エースも元の方へと視線を戻した。
するといつの間にかその先に映る姿がマルコ一人ではなくなっている。
エースがほんの僅かだが、目をみはったのをイゾウは見逃さなかった。
「白状しちまえ」
「企んでなんか、ねェよ」
「へェ。じゃぁ何してる」
「……み…見守って…る」
「はぁ?」
エースが大真面目に絞り出した科白に、イゾウはらしくなく素っ頓狂な声を挙げてしまって、まじまじとエースの顔を見る。
メインデッキの2人の方をじっと見つめたままの横顔が真剣そのものなのを確かめて、それからこみ上げる笑いに肩を震わせ腹を折った。口元を抑える手の形はこんな時もやはり優美だ。
「は、はっ、なんだそりゃ」
「いいから!もう放っといてくれよ!」
立っているのが辛くなって、周りに積まれた樽の一つに腰掛けたイゾウに、エースは一度視線ごと意識を移して噛みついた。
それでもどうやらイゾウが暫く笑い止みそうにない事を悟って苦々しく表情を歪め、諦めたように再び視線をメインデッキに戻して、
「もう良い、イゾウのバ……」
飛び込んだ光景に、エースは全ての機能を一旦停止した。
カ、と続く筈だっただろうことは明白だが、それでもあと一歩の所で罵られなかったイゾウは、硬直したエースを見てそれにつられたように笑いを収め、その視線の先を追う。
そして、同じ情景を目にして、「エース」と口を開いたのと、ほぼ同時。
「火銃!!!!!」
控えめなイゾウの声をかき消してエースは怒鳴り、しなやかなバネでもって飛び上がり、構えた指先を朱に輝かせて、積まれた木箱の上に堂々と降り立った。
平和な時間に響きわたったエースの怒声に、ざわりとデッキが沸き立ち、その場の視線が全て彼に注がれる。
その内、主立ったそれは3つ。
1つは、あちゃあ、とでも言うような表情で、しかし妙に楽しそうな傍らの視線。
そしてあとの2つは、豪速で飛び出した火の玉が鼻先を掠めた2人のもの。
「…ごめん!」
作ってしまった、時間が止まったような空気をエースは自らぶち破った。
はあと呼吸を鎮めながら、右手は燃える指先で寄り添った二人を指したまま、左手をぎりりと軋む音が聞こえそうな程堅い拳にして震わせて、
ついでに唇も震わせて、この上なく悲痛な顔でエースは叫んだ。
「黙って見てようと思ったよ!!おれマルコのこと信じてるし!!けどっ、けどマルコが選ぶならしょうがねェって分かってっけどでも!!サッチ畜生!!マルコはやらねェ!!マルコも!!お…おれのこと好きだっつったじゃねェか馬鹿野郎ぉお!!」
どうやら叫んでいる内にテンションがあがってしまって、
訳が分からなくなって、とにかく息が続かなくなるまで一気に吐き出したらしい。
仁王立ち、目が据わり、鼻息荒く、肩を大きく上下に揺らしているエース。
それを見上げている方は、全員、ポカンとするばかり。
「…ばっか、やろ…てめェ、アブねェだろうが!!何いきなりブッ放してくれてんだよ!!」
最初に我に返ったのは、大事な大事な前髪が少し焦げてしまったサッチだ。
前髪どころか睫毛が燃えてしまいそうな距離を、火の弾が通過したのだ。
それ本体の高熱と、それが連れてきた風の涼やかさを感じた鼻先に妙な名残がある。耳にも、びゅごう、と聞き慣れない音が残っていて、遅ればせながら冷や汗が吹き出す。
「うるせェ!!だから謝ったっだろ!!それに当ててねェじゃん!!」
「当てられてて堪るか!おれァお前等みてーな化け物じゃないんですー!!」
「パンの化け物だろ!!」
「にゃにおう…!降りてこいコラ!っつーかお前気持ち悪ィこと叫ぶんじゃねェ、おれァこんな化け鳥要らねェってんだ!!」
「…へ!?え、だってサッチ!さっき!!」
「あんなもん嘘に決まってんだろバーカ!!」
「誰が馬鹿だバーカ!!」
「お前だバーカ!!」
もっと冷静に真剣に問い質したい事があるのに、
残念ながら葛藤と混乱の中でエースは頭に血の上ってしまっていた。
複雑な思考が必要な事柄を一旦除けて、最も分かり易い言葉に噛み付いてしまったために、
2人の言い争いは退化の一途を辿る。
狙撃の瞬間にうっかり固唾を飲んでしまって以降、何となく見守り続けてしまっている周囲としては、あまりに不完全燃焼なかたちに失われていく緊張感。
けれど彼らはそのお陰で、一方で静かに渦巻く威圧感に気付く事が出来た。
浮き輪ではしゃぐ子供の背後に海王類のヒレが迫るのを見つけたような気分になったが、それよりももっと助けようが無い。君子危うきに近寄らず、上陸に備えて働かなければ、と各々自分に言い聞かせ、ギャラリーは無情に退避する。
「へんな髭!!」
「そばかす小僧ッぶ…」
おおかたの避難が完了したところで。
「…どっちも、馬鹿だなァ?」
「ッ!……」
ついに動いた脅威が、ぎゃあぎゃあと煩かった内の手近な方を黙らせて、妙に穏やかに尋ねると、遠くの方も息を詰める。
改めてぴんと張った空気を気にかける事無く、ただ訪れた静寂にゆったりと、マルコは微笑んだ。
「なァ」
「……」
返事が無いのでもう一度尋ねたものの、
一人は、自分のお陰で喋れないのだと封じている自分が一番分かっているので気にしないし、向こうから睨みつけている青年が黙っているのも予想通り。
マルコは小さく溜め息を吐いて、質問を変える。
「エース、お前此奴に、何て言われた」
「…ぐ…」
「……」
此奴、で持ち上げた時、手の中で呻き声が挙がったのでそれさえ封じながら、表情では、ん?と優しく促してやる。
しかしエースはふいと顔を逸らし、ぐったりとしたサッチをちらりと見遣り、唇を咬む。
「だんまりかい」
マルコは、エースとは反対に分かり易い言葉の方を除けて、それ以外の情報から大体の予想を立てていて、それはあくまで予想だが、恐らくほぼ正解だという確信があった。
ちなみに、エースが自分を想うが故の事と加味しても、あまり気分は良くない。主に、地に伏したこの男に対してだが。さて、何より何処から何と説明するべきか。今度は、重々しい溜め息を吐く。
「…お前のお陰で、煙草が消し飛んじまったよい」
「…ッ、それは…ごめん…」
「……せっかく一服してたのによい」
「ごめん、なさい」
「………2本も無駄にしやがって」
「だからごめん、て、え?」
エースが首を捻った時、その傍らでがたんと音がした。
「あっはは、もう駄目だ、我慢できねェ」
「なにが」
「…お前は、本当にイイ性格してやがる」
見れば、暫し気配を潜めていたイゾウが今にも転げ落ちそうに身体を前のめって、身体を震わせていて、エースはまた首を捻る。
マルコの位置からは見えないが、全く想像に難くない。
「っはー、苦し…一番隊長が形無しにも程があるぜマルコ」
「うるせェよい」
「まったく、こんな面白いもんが見れるとはね」
「…イゾウ」
「わかったよ、こいつはタダ見じゃ気が引ける」
未だに楽しそうなイゾウと、苦々しげなマルコ。彼らが繰り広げる会話がさっぱり掴めず、これ以上曲がらないという所まで首を捻ったエース。
「何が分かったんだよ、さっぱりなんだけど!!」
ついに謎だらけのやり取りに黙って居られず、エースが叫ぶと、大人達は改めて顔を見合わせ、とびきり悪い笑みを閃かせた。
イゾウはその笑みのままに顔を伏せ、場の空気を2人に空け渡す。
マルコは、す、と視線を移し、優しくも力在る瞳でエースを捉える。それは、これから伝えられる言葉の大事さを予感させるもので、エースは無意識に息を飲み、マルコが口を開くのを待った。
「…エース。おれはお前だけが、気に入らねェ。謝りにも、来るんじゃねェぞ」
目を見開いたエースを残し、マルコは背を向けて船室に消えた。
「…種明かしは、要るかい?」
今度はなんとか笑いを堪えて、ついでに、人に面倒な説明役を押し付けておきながら、殆どその仕事を奪って行った男の甘さになんだか喉の辺りが痒くなるのも堪えて。立ち尽くす背中にイゾウは尋ねた。
「さっきの…火を、分けようとしてた…?」
「正解」
2人の顔が重なって見えたから、マルコが、自分としかしないと思っていた事をサッチとしていた、と、理性が吹き飛んでしまった。アレは、勘違いだった。
「今日、…なんの日」
「エイプリルフール、って奴じゃあなかったか」
色々な事が一つに繋がって、すとんと腑に落ちて、いてもたっても居られなくなって、エースは木箱の山の上から、一気に下のデッキまで飛び降りる。
「おれ、行ってくる!」
着地して、依然そこに転がったままの兄を踏みかけながら、イゾウの方を振り返って叫び、慌ただしく船内へと走って行く。
イゾウが笑みを含んだ声で、小さく返す頃には、もうエースの姿は無かった。
***
からんからんと小気味よい木の音は、ぴたりと耳を付けた板からやたら大きく頭に響くが、不思議と嫌なものじゃないな、と、ぼんやりと思う。
「…生きてるか?」
「……おう」
「まァ大体察しは付くが…お前なんて嘘吐いた?」
「…言いたくねェ」
「マルコに惚れてるんだって?」
「あァ」
「やっぱりなァ…」
「なんだよ」
「面白くねェ」
「…は?」
「嘘だ」
「…この野郎…」
<end>