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終われなくてごめんなさい…
あと1回だけ続きます…
[しずまる]
エースが、なかなか戻らない。
何とかと煙は、という言葉の通りに同じ持ち場を望んだが、すんなりと許してやる訳にはいかなかった。
確かに、週末の降雨量の予報を考えれば、屋根は今日中に片付けておかねばならない。
けれど屋内が滞れば、当然それだけ荷物の運び込みも遅れる訳だ。
だから、先ずは部屋の一つを塗り終えて、後から手伝いに来い、それがマルコの指示だった。
けれど想定していた時間を遥かに過ぎても、一向にエースは戻らない。
「彼奴、何してやがる」
独りごちながらマルコは、その答えの見当をとっくに付けていた。
小さな溜息を区切りに、再び黙々と刷毛を滑らせる。
数時間後、来月から幼稚園と呼ばれる建物の屋根一面を、とうとう一人きりでファンシーな水色に塗り上げてしまうまで。
マルコの予想は、まあおおよそ当たった。
エースを一人で向かわせた部屋を覗くと、やはり彼はぐっすりと眠っている。
ただ、それを見てもマルコは、やっぱりな、とは思えずに、軽い目眩を覚えた。
今はつやつやと濡れた、パステルオレンジ。いかにも幼児がじゃれ遊ぶ背景にぴったりの柔らかなその色で、部屋の床一面を四辺満遍なく外から内へ塗り進め、いつしかすっかり囲まれて逃げ場を無くしたらしい。
まるで素人のような、いや、素人にしたって阿呆としか言いようのない失態を演じた上、脱出を諦めてど真ん中で大の字で昼寝、か。
思わず目元を押えた手が、眉間を離れて拳に変わり、更にそれがわなわなと震えたのは当然と言っていい筈だ。それから、作業靴の裏がぐちゃりと不快に鳴る歩を踏み出した事も。
「コラ、起きろよい!」
「うげ」
踏み付けるように蹴り、白のつなぎで靴裏を拭うように揺さぶると、エースは思いの他簡単に目を覚ました。
潰れた声と顰めた表情は滑稽で、それからゆっくりと覗く真っ黒な瞳は何ひとつも知らない子供かのように純真で、ほんの一瞬だけ、マルコはすべき事を忘れそうになる。
それを自覚して、いっそう強く腹を押すと、エースは自分の状況が良くないことを察し、へらりと愛想笑いをしてみせた。子供は子供でも、悪戯盛りの悪餓鬼に成長だ。
緩めずにいると、より詳細に状況を掴もうと視線を巡らせる。
放り出した腕の少し先から、パステルオレンジの広がる床、に、点々と続く靴跡。
「て、っめェ!マルコ!何すんだ折角塗ったのに!」