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花火
2012.08.04 Saturday
大きな花火大会の日だなー、
ということで…
大変しょーもないですが、
つづきよりどうぞです。
[しずまる]
ということで…
大変しょーもないですが、
つづきよりどうぞです。
[しずまる]
「これ全部銃声だったらいーのに」
言いながらエースは、
倒したシートに癖のある髪をなすり付けて伸びをした。
「物騒な事抜かしてんじゃねェよい」
「あんただよ、そーゆー顔してた」
標的を、テールランプの列から運転席に移して笑う。
こめかみに突き付けられても少しも動じずに、同じリズムでずっと、マルコの指がハンドルを叩く。
「どいつもこいつも浮かれてやがって、端から端まで撃たれっちまえ」
「思ってねェ」
「そ?本当かな」
苛立った声が返ることを面白がる風にして、器用ぶりたい若者は機微を悟ろうとしていた。
そんな未熟な子供を不安にさせている事が、余裕ぶりたい大人をいっそう苛立たせる。
エースが小さな舌打ちを聞いて、横暴な銃口のフリを解いた指先は、途端に頼りなく所在を無くし、すごすごと投げ出した膝の間に落ち着いた。
車は動かない。
人波から目を背けるには、ただ俯けばいい。
沈黙も、かろうじて。
しかし、不規則な爆音は、視線の先の手遊びでは紛らわしきれそうになくて、途方に暮れかけた、時だった。
「悪かったな」
他にしようがないと言う風に、マルコが言った。
「…なにが?」
他に言葉を見つけられずに、エースも返した。
「ここまで忌々しく混みやがるとは思ってなかった」
「…ああ、だよなおれ」
「寄り付いた事がねェからな…甘かったよい。こんな事なら、大人しく避けちまえば良かったな」
「え。え…なに、なんで」
「見たかったんだろうが。まァ、結局見せてやれなかったが」
マルコは、本当に忌々しそうに、そして少しバツが悪そうに話した。
エースは、表では間抜けにぽかんと口を開けて、内では拾った言葉でパズルを組む事に必死になった。
「こんなもの、見えなきゃだだの騒音だろい」
マルコが最後に、吐き捨てながら零した微かな自嘲が最後のピースで、
完成品を眺めながらエースは、こみ上げてくるのと同じスピードでじわじわと破顔する。
「どうした」
花火を見たかった筈の、
だから今日、デートをしようと言い出した筈のエースが何故、
花火もクソもあったものではない、そのくせ音と人ばかりは煩わしいビルの隙間の渋滞のド真ん中、
みっともないほどニヤけているのか。
理由は全く分からない訳でもなかったけれど、それはともかくその顔はどうしたと、聞かずには居れないほどの顔だった。
「ーーっ、ああ畜生。おれまで浮かれた奴らの仲間入りだ」
「は。とっくにそうだったろい」
「まーいっか、おれ今撃たれても良いよ」
「銃声ってより爆撃だなァ」
マルコは花火がきらいだと言った。
きっと嫌いなのは浮かれた人達による混雑で、花火自体には興味がない。だからきらい。そういう感じだ。前にフェスに誘った時に学んだ。
だからそんな気はしながら、でも一縷の望みを捨てられないで今日も誘ってみたら案の定。でも遠くに連れ出してくれて、それはそれでとても楽しかった。
それで楽しいだけのデートで終われた筈なのに、帰り道で結局、まだこんなに遠くなのに、花火渋滞はこんなに長くて。
けどそうか。
おれの所為で、じゃなくて、
おれの為に、か。
「な、マルコ」
「なんだい」
「花火って良いな」
「見えねェだろい」
「そんでも!」
それから暫く、先刻までが嘘のように、
見えもしない花火の音にエースははしゃいで、
しまいには玉屋鍵屋と叫び出して、五月蝿いと小突かれてもまた、弾けるように笑った。
***
「な、な、マルコ!!」
「今度は何だ」
「すーーきだーーー!!(たーまやーのテンション)」
「……お前、本当馬鹿だなァ…」
そんな事言って愛しくて堪らない癖にマルコこのやろう。
[しずまる]
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